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福井地方裁判所 昭和61年(わ)107号 判決

本店所在地

福井県小浜市遠敷二二号二番地

株式会社松風

(右代表者代表取締役 福尾一男)

本籍

福井県大飯郡高浜町薗部第五三号三一番地

住居

右同所

会社役員

福尾一男

昭和一一年五月三日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官村主憲博出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社松風を罰金一五〇〇万円に、被告人福尾一男を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人福尾一男に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社松風(以下「被告会社」という。)は、福井県小浜市遠敷二二号二番地に本店を置き、ドライブインの経営及び観光物産商品の販売等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、被告人福尾一男(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外したり、架空の仕入及び経費を計上するなどの不正な方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五八年五月一日から同五九年四月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億一一〇万二一八九円で、これに対する正規の法人税額が四二五七万九五〇〇円であったのにかかわらず、同五九年六月三〇日、福井県小浜市一番町四番一七号所在の所轄小浜税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四九〇万九一二八円で、これに対する法人税額が一三〇万八一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま右過少申告にかかる税額を納付したのみで納期限を徒過させ、もって不正の行為により前記事業年度における法人税四一二七万一四〇〇円を免れ

第二  昭和五九年五月一日から同六〇年四月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五二一九万二〇七〇円で、これに対する正規の法人税額が二一四一万二六〇〇円であったのにかかわらず、同六〇年七月一日、前記小浜税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一二一五万六九四五円で、これに対する法人税額が四〇七万七〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま右過少申告にかかる税額を納付したのみで納期限を徒過させ、もって不正の行為により前記事業年度における法人税一七三三万五一〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人兼被告会社代表者の当公判廷における供述

一  被告人兼被告会社代表者の大蔵事務官に対する質問てん末書九通及び検察官に対する供述調書(検察官請求証拠等関係カード番号52ないし61、以下括弧内の算用数字はそれを示す。)

一  吉田喜代治の大蔵事務官に対する質問てん末書五通及び検察官に対する供述調書(30ないし35)

一  小川陸三の大蔵事務官に対する質問てん末書三通及び検察官に対する供述調書(37ないし40)

一  井上泰範、三宅幸、奥野金弘、青井寿男の大蔵事務官に対する各質問てん末書(36、42ないし44)

一  登記官作成の商業登記簿謄本(63)

一  金沢国税局収税官吏作成の告発書(1)

一  金沢国税局収税官吏作成の査察官調査書二五通(4ないし28)

一  被告人兼被告会社代表者外一名作成の上申書(29)

一  検察事務官作成の電話聴取書(45)

一  小浜税務署長作成の昭和六〇年一二月一九日付証明書(一)(判示第一の関係)及び同(二)(判示第二の関係)(2、3)

一  押収してある総合口座通帳五冊(昭和六一年押第一四号の1、同号の4、同号の5の1、2、同号の6)、「御通」と題するノート一冊(同号の2)及びコクヨノート六冊(同号の3の1ないし6)

(法令の適用)

判示各所為は、被告会社についてはいずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(七四条一項二号)に該当するので、情状により、罰金の法定額をこえ、各免れた法人税の額に相当する金額以下で処断することとし、被告人についてはいずれも同法一五九条一項(七四条一項二号)に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、以上はそれぞれ刑法四五条前段の併合罪であるから、被告会社については同法四八条二項により、前記免れた法人税の額に相当する金額を合算した金額の範囲内で罰金一五〇〇万円に、被告人については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役一年にそれぞれ処し、被告人に対し同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

本件は、前示のとおり、福井県小浜市内において、被告会社の代表者として大規模にドライブインを経営していた被告人が、同会社の業務に関して、昭和五九年四月期及び同六〇年四月期の二事業年度にわたり、合計五八六〇万円余の法人税をほ脱したという事案であって、ほ脱額が多額であるばかりでなく、ほ脱率、すなわち、正規に納めるべき法人税額に対するほ脱額の割合は、いずれの事業年度においても八〇パーセントを越える高率となっているうえ、その犯行態様をみても、被告人は、各事業年度ごとに売上の一部等の除外並びに仕入及び経費の前倒しを経理担当者に指示し、さらに、その発覚を防ぐため、右担当者をして取引業者に架空の納品書の作成を依頼させたり、個人名義のいわゆる簿外口座を作らせたりした外、右簿外口座の名義を順次変更したり、右薄外口座の名義として架空名義を使用するなどの手段を講じていたものであって、計画性の極めて強い、巧妙かつ悪質な犯行というべきである。また、被告人が、脱税を企図するに至った動機についてみると、将来新設が予想されている敦賀、舞鶴間の道路沿いに新たにドライブインを建設するための資金、あるいは、被告会社の営業活動に不可決である旅行業者に対する接待費用その他の事業資金を捻出するためであることが認められ、この点、弁護人が指摘するとおり、被告人個人の遊興費等の捻出が動機である場合とは異るけれども、もとよりかかる動機が本件各犯行を正当化し得るものではないことは明らかであるばかりか、被告人は、右簿外資産の一部で自己または家族名義で不動産を購入するなど、会社資産を個人的に流用した形跡も認められるのであって、被告会社及びその代表者である被告人の刑責はやはり重いといわざるを得ない。

しかしながら、他方、被告人は、本件の発覚後は犯行を素直に認めて改悛の情を示し、本件各事業年度につき修正申告をなし、加算税等を含めその全額の納付を完了していること、今後再び同種犯行を繰り返さない旨誓約し、再犯防止のため、被告会社の経理体制の改善を図っていること、被告人には前科前歴が全くないこと、本件の発覚により被告会社の営業活動も影響を受け、収入が減少するなど社会的な制裁を受けていることなど被告人並びに被告会社にとって斟酌すべき事情も認められるので、これらの事情一切を総合考慮し、それぞれ主文掲記の量刑をなし、被告人に対してはその刑の執行を猶予するのが相当と判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋金次郎 裁判官 伊藤治 裁判官 白石史子)

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